「あ、やばい。やっぱり泣けない。」
大ヒットしている『君の名は。』を見に来て、泣いている観客に混じり空気の読めない男が一人いた。
自分だ。
物語は終盤に差し掛かっている。
僕の大好きなアーティスト『RAD WIMPS』の優美な音楽をバックに、幻想的な感動シーンがスクリーンに映し出された。
前後左右からは大量の鼻をすする声が聞こえて来る。
そしてクライマックス。
まるで宇宙にいるかのような幻想的な映像と、美しい物語が幕を閉じた。
しかし、僕の目に涙はない。
もちろん『君の名は。』はめちゃくちゃ面白かった。
稀にみる名作だと思うし、感動もした。鳥肌も立った。
新海誠さんの作品はどれも美しく、私もファンの一人だ。
だがしかし、僕は泣けなかった。

僕は、幼い頃から映画や小説やアニメといった物語が大好きだ。
それらを見ていると、主人公の想いに共感し、まるで自身が物語の主人公になったような気持ちになる。
主人公が悲しい時は悲しいし、嬉しい時は嬉しい。
そうして自分の感情が揺さぶられると、不思議と心が豊かになったような気がする。
けれども僕は、めったに物語に泣かされることがない。
素晴らしい物語に出会った時は、ひどく感動もするし、そのせいでしばらく動けなくなることもある。
ある種の放心状態になる。
しかし、僕の涙腺だけは固く閉ざされていた。
推測の理由としては、感動のシーンに差し掛かると、製作者の意図を汲み取ろうという余計な思考が働いて、少し興ざめしてしまうのだ。

しかしそんな鉄壁の涙腺を誇る僕が、ある小説を読んでボロ泣きした。
その小説を読み進めている時、どんどん残りのページが少なくなることが嫌で、終わるな、終わるな、と思いながら読んでいた。
そしてクライマックスのページを開いた時、僕の目からは大粒の涙が垂れた。
大の大人が大泣きした。
本当に泣いた。
大学の部活の引退の時に、みんなとお別れする時くらい泣いたかもしれない。
感動しすぎて心も身体も震えた。
しかも家で、ではない。
とある都内のブックカフェで、周りに人がいるにも関わらず、私は大泣きしてしまった。
声は押し殺していたが、あまりの号泣っぷりに親切なお姉さんがティッシュをくれたくらいだ。
ありがとうあの時のお姉さん。
しばらく泣き止むことができなかった。
その本が、これだ。

この本は4つの物語から構成されているが、その全てが泣けるので「4回泣ける本」と言われている。
4人の主人公が、それぞれ過去に戻り会いたい人に会いに行く。
過去に戻って何をしても現実は変わらない。
過去に戻れる時間は、熱々のコーヒーが冷めるまでのほんのひと時。
それでも、なぜ過去に戻りたいのか。
その短い時間で何を見たのか。
これらの理由が、想像もできないもので本当に感動する。
この本を読んで流す涙は、悲しみの涙だけではない。
喜びや優しさや後悔や悲しみなど、本来相反するような感情が強く湧きあがり、それらが相まってとてつもない感動を生み出している。
そして、この本を読んだ後は、日向で昼寝をしたかのような心地良さを感じさせてくれる。
僕はこの本に出会って、大切な人の『大切さ』を再確認することができた。
あなたはこの本を読んだ後、きっと大切な人に会いたくなるだろ。
そして伝えたいことがたくさん思い浮かぶと思う。
そう思わせてくれる本だった。
僕の中で、間違いなく数ある最高の一冊の一つに入る。
もし読む際にはどうか気をつけて。
たくさんのティッシュかバスタオルをご準備の上、一人で読んでほしい。
そして思いっきり泣いてください。
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